『光と影のTSMC誘致』深田萌絵

この書籍は深田萌絵が1人で書いていたのかと思ったら、森野ありさという人が半分以上の章を執筆しており、さらに2名が少しの部分を担当している。TSMCが誘致された熊本県と政府の間、そして政府とTSMCとのつながりで、その裏に何があったかについて切り込んでいる。また、台湾に本社のあるこのTSMCが台湾でどのような公害を起こしているかについても記されていて、環境アセスメントがずさんで住民が被害を被っていること、行政がそれを無視していることなど、半導体業界の不都合な真実をあばいている。例として、発がん性のある有害物質を垂れ流していること、地下水を大量消費するためその地域の水がなくなること、廃棄物が海に流れて大洋汚染に繋がるだとか、ありとあらゆる話が取り上げられている。

残念なのは、「新新聞(台湾の新聞社)によると~」程度の出自の紹介のみで、記載された事項や研究結果の出所がほとんど書かれていないことだ。筆者(森野)の読んだ話、聞いた話が中心となっているので、読みやすいけれども信頼性に欠けるので、その点では残念である。熊本県が今後どうなっていくのか大変心配だ。TSMCを政府主導で誘致する理由は、当時世界中で不足をしていた半導体を日本で製造できるようにし日本の企業に優先的に納める、という国内向けの話だったのだが、実はそのような取り決めはなかったとか、環境アセスメントが適当に行われ、規制がザルのようであるとか、耳が痛くなるような内容だ。TSMCが台湾で起こしてきた問題が熊本でも起こるのでは、という住民からの質問があるにもかかわらず、台湾の状況を調べようともしない、あるいは問題がないと、政府の担当者がうそぶいたとのこと。

そんな中、竹花顕宏氏の章では、排水リサイクルをほぼ完ぺきに行っている霞ヶ浦のテキサスインスツルメント工場について紹介し、熊本のTSMCでもできると断言していて(もちろんそれなりのコストはかかる)、改善できる方策があることを教えてくれる。半導体製造に詳しい深田氏は、現在の製造方法では使用する水量が半端な量ではないため、少しでも少ない量で製造できる方法に移行すること、半導体をリサイクルすることなどを提案している。彼女の説明を読む限り、決してできないことではなく、是非官民一体になって部品やニーズに対する見方や考え方を変え、そういう方向に持って行ってもらいたいと思った。(2025年2月)

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