『長英逃亡』吉村昭

間宮林蔵に引き続き、何度でも読み返す本の一冊。読み応えのある本で上下2冊を10日で読破した。これほど物語に引き込まれたのは久しぶりである。なんといってもほとんどが実話であり、江戸時代末期の様子が非常に詳しく書かれている。逃亡する長英を捕縛しようとするグループ、いわゆる現在の警察だが、どのように機能していたか、大変勉強になった。地方と江戸をつなぐ街道に設けられた関所の様子も詳しく書かれていて、入り鉄砲出女としか学ばなかった自分には新たな学びだった。

日本を取り巻く海のあちこちに出現する異国船にどう対応するか頭を悩ます幕府の様子、蘭学そして西洋の兵法を学んでいざという時に備えようとする藩の動き、中でも早くからイギリス、フランスの船への対応を余儀なくされていた薩摩藩の島津斉彬の様子などは大変興味深かった。不幸な最後を遂げた長英だが、彼が当時の日本に与えた影響は甚大だ。もし彼の先進的な意見を理解する人間が幕府にいて牢屋に囚われることなく生涯を送っていれば、明治維新がどのようになっていたかわからない。

コメント