
先日、在りし日の渡部昇一がユーチューブで「岩波書店が出版している本書には、第1章から第10章と第16章が割愛されていて、不完全な読み物である。日本人に読まれては困ることが書いてあるのか、岩波書店の意図が分からない。」と言っていたのを聞き、岩波ではなく祥伝社から出版された全章の揃った本書を読み始めた。溥儀の個人教授として勤めたイギリス人の手記である。日本が溥儀を皇帝に立てて満洲国を始める前の中国の様子が克明に述べられているが、支那の混沌とした状況が複雑で理解があまり深まらず読みにくかった。そこで、岩波が割愛した部分だけを読むことにしたのだが、日本軍が関わる部分は大部分が第16章のある下巻にあり、その章を読んだ限りの感想では、こちらの方が読みやすかったし、各章の見出しをみても、こちらの方が面白そうだった。気が向けば下巻のみ再度借りて読んでみたい。
結論として、岩波に割愛された章には特に日本人に読ませたくないようなことが書かれていたとは思えない。ただ、日本軍が無理やり溥儀を担ぎ出し満洲国をつくったとは書かれておらず、支那の人々の中で満州国の設立を喜ぶ人々が大勢いたことは事実のようである。
満洲や君主制、満洲と日本との関わりについては、本書に以下のような記述がある。
「1898年当時、満洲に住んでいた英国の商人たちは、「まさに目の前で現実のものとなってゆくロシアの実質的な満洲併合」について語っている。・・・シナの人々は、満洲の領土からロシア勢力を駆逐するために、いかなる種類の行動をも、まったく取ろうとはしなかった。もし日本が、1904年から1905年にかけての日露戦争で、ロシア軍と戦い、これを打ち破らなかったならば、遼東半島のみならず、満洲全土も、そしてその名前までも、今日のロシアの一部となっていたことは、まったく疑う余地のない事実である。」(第1章)、「日本は・・日露戦争で勝利した後、その戦争でロシアから勝ち取った権益や特権は保持したものの、・・満洲の東三省は、その領土をロシアにもぎ取られた政府(註:満洲王朝の政府、清朝)の手に返してやったのである。」(第4章)
「満洲は清室の古い故郷であった。・・・満洲地方には、漢人、蒙古人、満洲人、そして数多くの混血民族など、王朝に忠誠を尽くす人々がすこぶる大勢いた。だからこそ満洲は、革命で積極的な役割を全く演じなかったのである。・・・外蒙古は、1911年まで自国が「シナに従属」するのではなく、「大清国」に従属するものだと見なしていたということだ。・・・シナはすでに満洲人を異民族、すなわち「夷族」であると宣言し、その根拠にもとづいて、満洲人を王座から追放したではないか」、「(すでに1919年から張作リンなどが皇帝を帝位に就かせ、日本の保護下で君主制を復活させて満洲を独立させる計画だというウワサや報道が出ていたので)次のリットン報告書の一節は説明しがたく思われた。・・・満洲の独立運動について「1931年9月以前、満洲内地ではまったく耳にもしなかった」と説明されていることである。」、「君主制の復古を歓迎するだろうと見る私たちの考えが正しいのなら・・・共和制が悲惨な失敗に終ったからである。(シナの)国民大衆が望んでいるのは、立派な政府である。」(第16章)
「日本公使は、私本人が知らせるまで、皇帝が公使館区域に到着することを何も知らなかった・・・私本人が熱心に懇願したからこそ、公使は皇帝を日本公使館内で手厚く保護することに同意したのである。・・・日本の「帝国主義」は「龍の飛翔」とは何の関係もなかったのである。」(第25章)、「皇帝が誘拐されて満洲に連れ去られる危険から逃れたいと思えば、とことこと自分の足で歩いて英国汽船に乗り込めばよいだけの話である。・・・皇帝は本人の自由意志で天津を去り満洲へ向ったのであり・・・皇帝は、シナの国民から拒絶され、追放された今、満洲の先祖が、シナと満洲の合一の際に持ってきた持参金の「正統な世襲財産」を再び取り戻したまでのことだ。」(終章)
大東亜戦争での日本の敗戦後、崩壊した満州国から日本への亡命の途次でソ連軍の捕虜となった皇帝は、東京裁判でソ連から言われた通りの偽証を繰り返し、「満州事変当時、溥儀が陸相南次郎大将に宛てた親書の中で、満洲国皇帝として復位し、龍座に座することを希望すると書いていたという事実を突きつけられても、溥儀はそれを偽造だと言って撥ねつけたのだった」(訳者あとがき)。コミンテルンに支配された戦勝国によるリンチにしか過ぎない場で、偽証しなければ命の保障が無かったのだろうが、異民族との戦争に負けるということの意味を溥儀は日本人以上に痛切に捉えていたのかも知れない。
元帝国は漢民族にとっての異民族であるモンゴルが拡張してシナを征服・支配した王朝であり、大清国も異民族である満州(女真)族がシナを征服・支配した王朝であったが、現在ではそのモンゴルの一部と満洲は逆にシナの共産党独裁王朝(政権)によって征服・支配されているのである。
本書は満洲問題だけでなく、中国の近代史に関心を持つ方にとっては必読の書物であると思うが、内容も非常に興味深い。以上はウェブサイト「史実を世界に発信する会」からの抜粋。リンクは以下https://hassin.org/01/tag/%e6%a5%b5%e6%9d%b1%e8%bb%8d%e4%ba%8b%e8%a3%81%e5%88%a4
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