本書の副題は「司馬遼太郎、中沢啓治のペテンを暴く」である。私自身、学生時代から彼の本をたくさん読んできたファンの一人だったが、帰国して様々な本を読んでいて、彼に偏った歴史観があることを知り、一歩引いて冷静な目でみるようになっていた。著者の主張は、その考えが間違っていないことを確信させるものであった。また、中沢啓治は『はだしのゲン』の著者で、著者は彼のことも大いに批判している。小学生の時に読んだ漫画で、覚えているのは原爆の悲惨さ、恐ろしさが描かれていて、反戦を訴える内容だったということくらいだ。大人になった今読めば、容易に信じない内容もあるのであろうが、子どもにはとてもそのような能力も知識も判断力もないであろう。それを思うと、中沢は確かに良くないことをしている、と言える。
本書は2か月前に出たばかりなので、内容も真新しく興味深く読み進めることが出来た。「ビスマルクの語った有名な言葉、「国家は財政によっては滅びない。国民が国家の意思を失ったときに滅びる」をかみしめる時期に来ている。」(p-90)と訴える著者に100%賛同する。司馬遼太郎が志半ばで亡くなって完成できなかったノモンハン事件を、半藤一利が『ノモンハンの夏』で完成させ、その本で日本軍をこき下ろしたとあるが、私はこの事件については詳しく知らないので今後調べていこうと思う。著者はまた、村上春樹についても物申している。私はいっとき村上春樹の本を読み漁り、今はもう読む気がしないのだが、ここで著者が述べているように、確かに村上春樹の歴史観には司馬遼太郎に共通するところがあるように思う。
本書の後半で、著者は、ノモンハンで戦った辻正信という軍人についてかなりのページを割いている。ノモンハンと聞くと、大失敗した作戦、と思うのだが、著者はそれは全くのデマで、半藤一利の作為的な捏造だそうで、この小説がヒットしたがゆえに間違った歴史観が国民に広まったという。半藤に言わせると「ペテン師」「悪の権化」「日本人離れした悪」らしいのだが、著者は素晴らしい人物と言う。この人物についても私は良く知らないので、早めに彼についての本を読みたいと思っている。(2024年)12月20日)
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