本書を手に取る前、ニセ科学とはてっきり地球温暖化(気候変動)のことだろうと期待していたのだが、これについては一切触れられていなかったのは残念であった。理科の教師である著者は、向山洋一という人が提唱し、かなり有名で全国に広がり多くの賛同者もある、TOSS と言う教育グループについて、エセ科学だとして徹底的に批判をしている。この本での「エセ科学」の定義は、「科学っぽい装いをしている」あるいは「科学のように見える」にもかかわらず、とても科学とは呼べないものを指す(p-3)。そして、これに騙されやすい人のタイプ、騙されやすい教員について述べている。
上記のほかに多くのページを割いているのは『水からの伝言』という、一時大変もてはやされた書籍についてである。この本はデトロイト補習校にも入って来て、「素晴らしい」と言っていた講師がいた。私の記憶が正しければ、その講師は校長にこの本の良さを語り子どもたちの教育に使うことを提案したが、当時の校長はうんと言わなかった。私自身は、うなづけるところがないことはなかったが、けつろんとして胡散臭いな、と思った。さらに、TOSSが実践しているEMという菌にを巡っての教育実践ついて、その非科学性について様々な角度から批判するとともに、教育現場に実際に取り入れられている例をいくつも挙げ、問題として提起している。ほかにも脳をめぐるニセ科学、食育を巡るニセ科学、原発に関するニセ科学などが取り上げられている。
それらの中で意外だったのが、かの有名な「奇跡のリンゴ」についてである。アメリカでこれにまつわる映画を上映する予定だったが、寸前で横やりが入って上映できなかった(あるいは本を出版するところまでこぎつけたが寸前で出版できなかった、だったか)と何かで読んだ覚えがある。著者は、この話はごく限られたりんご農園で達成できた話で汎用化できるものではなく、農薬の必要性について意見している。また、オオカミ少女についても捏造であると述べ、いくつかの例も挙げて、科学リテラシーをもつことの重要性を主張している。ただひとつ、著者がエセと言ったものの中に、ケムトレイルが挙げられていた。この本は2019年に執筆されているが、その頃にはすでにケムトレイルが実在することは、少なくとも米国では知られていたと思う。2024年の今は、もっと多くの人々がこれの存在について知っているし、内部告発の形で「自分も撒いたことがある」という人物も出現している。(2024年11月)
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