
東京裁判で、前に座っている東條英機の頭をピシャリと叩いた大川周明がどのような人物なのか随分前から興味があった。本書では大川のみならず彼が関わった人物や出来事についても幅広く書かれており、さらに登場人物の戦時中の水面下の動きについて詳しく述べられているので大変勉強になった。大川のインドとの関わり、「正直と親切」をモットーとする大川塾について、石原莞爾との繋がりなど。大東亜戦争に日本が足を踏み入れた原因のひとつにイギリスの工作があったとの著者の意見には説得力があった。明治から昭和初期に、豪快なかつ矜持のある人物が多くいたことを改めて知った。大川塾の第一期生が関わったインド国民軍の誕生からインド独立までの話で、藤原岩市という軍人(兵庫県西脇市出身)が大戦中にF機関で行った工作活動があったからこそ、との話は面白かったし、彼の後を継いだ岩畔豪雄が彼の苦労を台無しにした話も。
石原莞爾が東京裁判で、「日本人が戦争を始めたのは日本人ではないか」とキーナン裁判長(?)から問い詰められた時、「戦争を始めたのは黒船に乗ってやってきたペリーだ」と反論しキーナンは何も言い返せず、それ以降石原は裁判に呼ばれもせず、戦犯にも名前を挙げられなかったというが、この大川周明もそれに同じく、もし東京裁判で証人に立たせたら、アメリカ人の不合理を追求し、彼を訴追するどころが裁判自体がなし崩しにされることを恐れ、精神病ではないと判断されたのちも法廷に呼び戻されなかった、というのは納得である。戦後世代の我々は、大川周明のような人物が存在したことを知るべきだと強く思う。


コメント